§指圧百話(8)

指圧を通して体験して来た四方山ばなし


[8] 胃ケイレンの指圧治療

これはまだ、筆者が指圧師になりたての頃で、治療実績もあまり無かった時代のことです。

ある時期、あるグループの大勢の団体旅行客と一緒に新幹線で1泊2日の旅行に出掛けたことがあったんです。

東京駅から出発して、名古屋を過ぎた頃だったと思いますが、同行者の一人で年配の男性が他の車両で「胃ケイレン」を起して苦しんでいると言ぅことを聞いたんです。

同行者に病人が出たんじゃ大変だなと思いましたが、自分には何も出来ないので他の同席者と話し続けていたんです。

 

そうしたら、引率責任者が筆者の側に来て、何処にも医者が居ないから、お前見てやってくれと言われたんです。

そう言われても、これまで、そのような救急患者を治療したことはありませんし、まだ指圧の治療に自信を持つほどではありませんでしたから、躊躇したんです。

でも、現に苦しんでいるお年寄りが居るのですから、とにかく、その車両まで行ってみたんです。

すると、3人掛けの座席の窓際の所で、その方が苦しそうに俯いて、ジッと我慢していたんです。

 

場所は狭いし、横にすることは出来ないし、どうしたもんかと思いながら、その方の後ろに座って背中を撫でてあげました。

そして背後から左手を前に回して、その方の胃の上に左手を当ててみたんです。すると、胃がブルブルと激しく震えていたんです。

成る程、胃ケイレンとはこんなに胃が震えるもんなんだ、と言ぅことが実感できました。江戸時代には、それを「癪(しゃく)といったようですね。

話を聞くと、その方は、その日の前日も胃ケイレンを自宅で起していたそうなんです。ですが旅行の興奮か何かで再発したようでした。

 

それはともかく、どうしていいか分かりませんでしたので、左手はその震えている胃に当てたまま、右手のナックル(人差し指を曲げた形)でその方の左肩甲骨下縁あたりをグーっと強圧したんです。

実は、その左肩甲骨の下縁は胃の反応点(経絡上の意味で)であることを知っていましたので、そこを押してみようと思ったわけなんです。

どれくらいの時間、そこを押していたのか分かりませんが、気が付いたら汗びっしょりになっていました。

その内、こちらも大分疲れて来たころです、急にその方の胃の震えが止まったんです。オ~、効いたんだぁ!と思って、嬉しいよりも、ビックリしました。

その後、ゆっくりと左手と右手を離して、やれやれ、良かったと思うと同時に、安心感でぐったりしました。

幸いに、その方はその後の旅行中も胃ケイレンが再発することなく、無事に旅行を終えられ、東京に戻ることが出来たんです。

 

この体験から、指圧治療と言ぅのは、何ら道具も必要なく、何処でも直ぐに対処できて、それなりの効果が期待できるんだから素晴らしいことだと実感したんです。

また、経絡の反応点(特に指圧用の経絡)は、こうした緊急の時に効力を発するもんだと言ぅことも教えられたんです。

筆者は普段はあまり、経絡理論に基づいた治療はしていませんが、この時はハッキリと、そこが胃の反応点であることを自覚できました。

 

ですが、普段、治療院とか自宅で胃ケイレンの治療をする場合には、全身の治療をすることが大切です。

胃ケイレンと言ぅ症状は、結果ですから、その原因となっていることがあるわけです。胃が悪いからケイレンを起した訳ではないんです。

そこには肉体的原因、精神的原因、または霊的な原因など複雑な要因があって、結果的に胃ケイレンと言ぅ形で自分の間違っていることを教えられている訳なんです。

そういうことも含めて、指圧の全身治療をすることが、気持ちを落ち着かせ、肉体的にも楽になり、身体の免疫力を高め、症状を和らげることになるんです。

胃腸の具合の悪い方は積極的に指圧の治療を受けられるといいでしょうし、また治療する方は以上のようなことを考慮に入れて治療に当たられると、必ず効果があると思います。

 

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