故・増永静人先生が生前に著された本の一つに、『治療百話』があります。発売された当初は或る出版社から出されたものだったのですが、現在では医王会で扱われているようです。
この本のタイトルが、「治療百話」になっているのは、治療やその他の話題を百話掲載される予定で出版されたのですが、第一巻の50話で終わってしまったんです。残念ながら、その後、増永先生が他界されたからです。
この本は発売以来、プロの治療師はもとより一般の方にも大変に評判が良かったものです。内容が、当時、医王会指圧センターに治療に来られていた患者さん達のことが中心になっており、また具体的に患者さんの症状とか、指圧の治療をどのように行ったかなど、かなり詳細に述べられていますので、誰にでも分かり易い所がありました。
とは言え、増永先生の著書全般に言えることですが、例え一般向けに書かれたものでも、その内容は大変に高度で深いものがあります。哲学や臨床倫理学を収めた増永先生でしたから、その表現にも特徴がありました。
易しく書いておられるようでも、それを本当に理解するのには容易でないところも多々ありました。それを表面の意味だけを理解したつもりになっていると、実は違った取り方をしてしまうような所がありました。
私も、この『治療百話』に載っている患者さん達のことは同時期に医王会で働いていましたから、殆どの方のことは知っています。自分自身でも治療させてもらった方もあり、身じかに治療を受けておられる姿を拝見した方も多くあります。
また、生前中の増永先生から、それらの患者さんの治療の後に、あの人はこうだった、ああだった、と症状などに付いて聞かされたこともありました。
ですから、増永先生の著書のなかで、私が一番親しみを感じるのが、この『治療百話』なんです。実際にその現場にいた訳ですから、読んでいても大変に臨場感があり、一話ごとに、ああそうだった、と頷くことも多いわけです。
ところで、今回この『治療百話』を取り上げたのには訳があります。先ほども、この本は治療師にも一般の方にも評判が良かったと申し上げたんですが、最近、指圧の勉強に来られた男性から別の指摘をされました。
この男性は、知人から増永先生の話を聞いて興味を持たれ、先生の著書を何冊も読まれ、その上で、医王会で指圧の初級講座まで受けられた方なんです。ただ、現在の医王会の講座には満足されなくて、再度、私の所で学び直しておられます。
それはさておき、この方は『治療百話』も読まれたそうですが、読んでいて、どうにも重たい感じがして最後まで読めなかった、と言われたんです。
これを聞いて、私もちょっとビックリしました。これまで『治療百話』を読んで感動したと言う方には大勢会っていますが、この方のような感想を述べられた方は始めてでした。
実は、この人は長年、合気武術を修練されている方で、どちらかと言いますと「気」を感じ易い方なんです。ですから『治療百話』を読まれて、素晴らしい内容だと言うことは分かるけれども、そこから受ける感じが暗くて、重かったと言われたんです。
それを聞いて、私も確かにそうかも知れないと思いました。特に『治療百話』の後半は、海外講習での話が多くなるんですが、そこに原因があるのでは、と感じたんです。
どう言うことかと申しますと、生前の増永先生は海外講習に出掛ける前後から可なり体調を崩しておられたんです。時々、身体の変調に付いて、ポツッと漏らされたりしていましたからね。
ですから、この『治療百話』の後半の執筆のころには可なり身体に負担が掛かっていたのではないかと想像されます。その体調不良による苦しい思いが本文にも反映されていたものと判断できます。
先の方が、この本を読んで重くて、暗い感じを受けられたと言うことは、この生前の増永先生の体調不良の波動を本から受け取ったと言うことになるのではないでしょうか。
そんなバカなことは無いと一蹴することは簡単ですが、そうしたことが無いとは言い切れません。何しろ、人間の想念は一旦発せられると、時間・空間・距離などは関係なく、必ず何らかの現象として現れる、と言うことは宇宙の法則ですからね。
生前の増永先生の苦しい想いが、その本を読む人に影響を与えても不思議はありません。まして、それを身を入れて読めば読むほど、そうした影響を受け易いかも知れませんね。特に、その方のように気を感じ易い人は尚更ではないでしょうか。
とにかく、今回はこの方の一言によって、人間の想念の在り方や影響の仕方を改めて思い知らされたわけです。話す言葉だけでなく、こうした本などからも同様に影響を受けることを認識しておく必要があるように思います。
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