§指圧百話(43)

指圧を通して体験して来た四方山ばなし

[43] 矯正に気をつけよう


筆者が指圧学校に通っている頃、生徒の多くは将来も指圧師として仕事をして行こうとする者が多かったのですが、中にはそうでは無い者も居ました。

特に若い方の中には、1時間以上も治療時間の掛かる指圧を嫌って、もっと楽に短い時間で治療が出来るものを求める人達も居ました。

中でも「カイロプラクティック」のような矯正を主とする施術に興味を持つ者が結構居ました。指圧学校に通いながら、カイロの勉強をしていました。

で、そちらで習い覚えた技を指圧学校の実技の授業の間にこっそりと誰かに試したりしていました。

何しろ、短時間で骨の矯正をして歪みを取るので患者にアピールできると言うのが受けていたようです。

 

でも、その様子を見ていて、ちょっと危ないと感じました。カイロでは専門の治療台を使って慎重に矯正を行うわけですが、それをちょっと習っただけの者が治療台も無い所で誰かに行うことに疑問を感じたんです。

また、カイロを習っていた者の中にも、実習で生徒同士が矯正の練習をしていて首をオカシクしたと言う者も居ました。それなのに、何となく矯正が恰好いいように思う者も少なからず居たようでした。

最近のカイロはソフトカイロと言って、昔のように強い矯正は行わない方向に進んでいるようですが、以前はアメリカ流に背骨の矯正を行うのが好しいとされていたんです。

でも、アメリカでも専門のカイロの団体が調査した結果、長年継続してカイロの治療を受けていた患者が、かえって歪みが酷くなっていたと言う結果を得たと報告したことがありました。

 

残念ながら、カイロは西洋医学的な対処の仕方で、基本的には骨(特に背骨や仙骨)の歪みが全ての原因だと考えていますから、歪んでいるものは悪いことだから、真っ直ぐにしないといけないと言った感じなんですね。

しかし、人間の体はそんなに機械のようには考えられません。体が歪むにはそれなりの理由があるんです。肉体的な、目に見える歪みを治しても根本的な治療にはならないことが多いのです。

何故なら身体の症状は全て、その者自身の心の現われを表わしているからです。その中には前の世からの因縁なども含まれ、実に複雑な要因が絡んでいることも多いのです。

それなのに西洋的な考えでは、白か黒か、善か悪かの二者選択しかありません。その為に、背骨が歪んでいるのは悪、真っ直ぐなのが善として、何としても歪みを直そうとするのがカイロなどの在り方ではないでしょうか。

 

それはともかく、この矯正のことで記憶に残っていることがあります。それは増永先生に関することなんです。

筆者が指圧学校を卒業してから、増永先生がやっておられた医王会指圧センターで働いていた当時の話です。そこに所員として一緒に働いていた指圧学校当時の同級生が居ました。

ただ、どうした訳か、増永先生がこの所員に対しては何が気に入らなかったのか、何かに付けて文句を言ったり叱責をされることが度々あったんです。

どちらかと言うと、その所員は小柄で何となくオドオドした態度を取る人でしたので、そうした点が増永先生の癇に障っていたのかも知れません。端から見て、その所員が可哀相だと思える時もありました。

 


その当時、増永先生は生徒の講習中に指圧のやり方をやって見せるために手の空いた所員をモデルにしてデモンストレーションをしていました。

ある時、先のよく怒られていた所員をモデルにして首の矯正の仕方を生徒達に見せられたんです。

たまたま筆者もその場に居合わせたんです。元々、増永先生は矯正が上手なわけではありませんでしたが、座位の姿勢で彼の首を背後から捻る技を行われたんです。

カイロと同じような要領で、首の矯正をされたわけなんですが、その時、件の所員が痛いと言って顔をしかめたんです。何かマズイなと言う感じがしたんですが、その時はそれで済んだんです。

ところが、その後、その所員が首の調子が悪いと言って仕事を休んでいるということを聞いたんです。どうやら、あのときの首の矯正はちょっとやり過ぎだったんでは、と思ったんです。

 

このことがあってからは、やっぱり矯正は見よう見まねでやるものではないと痛感すると共に、自分は絶対に矯正はやるまいと決めたんです。以来、今日まで指圧の治療中に矯正的なことはやっていません。

で、この所員ですが、それ以来、医王会に戻って来なかったんですが、噂では増永先生のこととをヒドク恨んでいると言うことを聞いたんです。

そこまで言うかと思いましたが、先述しましたように増永先生の彼に対する普段の態度がありましたから、首の矯正の失敗と相俟って、余計に恨みを誘うことになったのではと考えます。

増永先生が他界された折にも、先生に対する批判をしていたと言うことも誰かから聞かされたことがあります。矯正の事のみならず、この一件は筆者の胸に何時までも残っている出来事なんです。


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