◇スウェーデン女王陛下のこと

何時も申しているように、筆者はあまり上流階級の方々の治療をすることには興味がありません。一般の方々にお会いするのが一番気が楽ですからね。

ところが、時として上流階級の方にお目に掛からねばならないこともあるんです。もう随分と前のことになりますが、その当時、スウェーデン大使夫人の治療を定期的にしておりました。

六本木のスウェーデン大使館の中にある大使公邸に出向いて、大使夫人の治療をさせてもらっていた訳です。

当時は方々の大使館に出入りしていましたので、あまり気も使わず、ジーパン姿でデイパックを引っさげて行きました。

指圧の治療と言う個人的なことですので、先方も服装のことなど全然気に掛けませんので、何処でもこの恰好で押し通しました。

 

この大使夫人はちょっと身体が硬い人でしたが、指圧の治療が気に入って、定期的に受けられたんです。今の新しい大使館ではなく古い建物の時から伺っていました。

それで新しく建て替えられる間は、やはり六本木近辺の高級マンションに一時移られたので、今度はそちらにも伺いました。

前回話しましたウルグアイの大使もそうでしたが、この大使夫人も話し好きで、治療の合間にいろいろと話すことが出来ました。治療中は単に患者と治療師の関係ですから、地位や立場は関係ありませんものね。

その点、外国人の方が接し易いところがあります。日本人は個人的な所にまで社会的な立場を持ち込んで、偉そうにする人がいますからねぇ。

 

ところで、ある時に、この大使夫人が外出先から電話をして来られたんです。今、スウェーデン女王陛下を案内して都内を回っているんだけど、ちょっと女王陛下が疲れておられるんで指圧の治療をしてもらえないかと言うことだったんです。

突然の話しだったので、ちょっと戸惑いましたが、お世話になっている大使夫人からの頼みですから、直ぐに伺うと返事したんです。

筆者もそのような上流階級の方にお目に掛かるのは初めてでしたので、外国人に慣れているとは言え、少々緊張しながら、滞在されていたホテルオークラに出向いたんです。

ホテルに着いてみると、案の定、大勢の取り巻き(SPや随行員、大使館員、それに報道関係者など)が居て、女王陛下の所にどうやって行ったらいいのか分からず、途方に暮れました。

皆忙しそうにしているし、誰に聞いたらいいのかウロウロしていましたら、運良く大使夫人に会えて、やっと女王陛下の部屋に案内してもらったんです。


今では、どのように挨拶をしたのかも忘れてしまいましたが、とにかく治療をしなければと急いで用意をしたことだけは覚えています。

ホテルなどで治療をする時はベッドの上ではやり難いので、床にシーツや毛布を敷いてその上で行なうようにしています。例え女王陛下でも同じようにしました。

確かに治療を始めてみて、女王陛下の体調が良くないことが分かりました。よく記憶していないのですが、筆者なりに何か気付いたことを申し上げたように思います。

ただ、やはり相手が相手だけに、何時もよりは調子が上がらず、何かフワフワ治療を終えたように感じました。もうちょっと、やりようがあったかなと反省をしました。

 

面白かったのは、その部屋で女王陛下の治療をしていた時、隣の部屋から国王陛下が覗き込まれて、興味深かそうにご覧になっていたことです。

ニコニコしながらご覧になっている姿は、大変に親しみやすい感じで、とても国王陛下と言った特別な方には見えませんでした。

直接、国王陛下とお話を出来る機会はありませんでしたが、こうしてお顔を拝見できただけでも有難いことだと思いました。

こうした機会を与えて頂けたのも、大使夫人の存在があってのことですし、夫人が指圧を本当に好きで、その効果を信じて下さっていたお陰でした。


その後、この大使夫人もご主人と一緒に本国のスウェーデンに帰られてからは、2度とスウェーデン大使館には伺っていません。

また、国王・女王陛下はその後も来日されていますが、こちらも2度とお会いする機会がありませんでした。筆者としては、こんなご縁は一度で十分だと思っています。



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