ある時、外人女性から出張治療に来てくれませんかと問い合わせがありました。何処かと聞きましたら、千葉県の市川駅の側だと言ぅんです。
その当時は少々遠方でも出掛けていましたので、取り合えず了承して、その指定の場所まで行きましたら、小さな民間のアパートの一室でした。
そこに住んでいるのではなく、短期間だけ借りているような話しでした。で、何処から来たのかと聞きましたら、フランスから来たストリップの踊り子であることが分かりました。
世界の各地の劇場を渡り歩いて踊っているようで、日本にも何回か来ていたようでした。とにかく、そうした仕事ですから肉体的にも疲れるようで、指圧の治療が好きだったんですね。
そのことがあってから何日かして、またその女性から、今度は川崎の方に治療に来てくれないかとの電話があったんです。そちらの方には殆ど行ったことも無かったので、一度行って見てもいいかと思い出掛けました。
そうしたら今度は、ストリップ劇場の隣のアパートの狭い部屋でした。劇場側が踊り子のために借りていたものだったんでしょう。
まぁ、ここでも普通に指圧の全身治療をして引き上げたんです。もう、これで治療の依頼は無いと思っていたら、後日また電話があったんです。
何処からだと聞いたら、埼玉県の草加市からでした。その時は出演している劇場の楽屋に来てくれと言ぅことでした。
何だ、これじゃぁ、千葉、神奈川、埼玉と首都三県にまたがっているじゃないかと思いましたが、乗り掛かった船だと思い、草加駅まで行ったんです。
筆者はそちら方面の地理は不案内ですから、幾ら住所を聞いていても不安でした。でも余り駅から遠くない所にあった劇場でしたので、旨く辿り着きました。
その劇場の前で彼女が迎えてくれて、直ぐに楽屋の彼女の部屋に案内されました。そんな劇場の楽屋なんかに入ったことがありませんでしたので、ちょっとドキドキしながら付いて行ったんです。
そうしたら、その楽屋の中で日本人の踊り子さん達が上半身裸の状態でメイクをしたりして準備をしているところでした。皆が一斉に筆者の方を見るんですよ。
何か、歓迎した風ではなく、何だ知らない男がこんなとこに入って来て、と言ぅような咎めの視線で見つめられたんです。
ですから、彼等と目を合わせないようにして、そのフランス人の後に続いて彼女の個室(と言ってもう、ベニヤ板で仕切ってある小部屋)に飛び込むようにして入ったんですよ。
そこには古臭い布団が敷いてあるだけの所でしたが、場所が場所だったので何となく落ち着かないまま、彼女の指圧を始めたんです。
途中までやっていたら、突然、下の方から大きな音がして音楽が流れてきたんです。同時にだみ声の男がマイクで喋り出したんです。
何事かと思いましら、丁度舞台が始まったところだったんです。音楽がガンガン響いてくるわ、その男ががなるように喋るわで、上に居てもオチオチ治療をしておれませんでした。
頭がガンガンするようで、一刻も早くそこから逃れたい衝動にかられました。治療が終っても下からの騒音は収まらず、走り抜けるようにして、さっきの踊り子が屯している楽屋を通って外に出たんです。
帰りはどうやって駅まで行ったか分からないほどでした。その時以来、このフランス人ダンサーからの治療の依頼はありませんでした。今から思えば懐かしい体験ですねぇ。
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